祇園祭と「くじ」〜山鉾巡行の舞台裏〜

祇園祭といえば、日本三大祭りのひとつ。毎年7月になると京都の町は華やかな雰囲気に包まれ、全国・海外から多くの方が訪れます。

そんな有名なお祭りですが、今回はその中でもあまり知られていない「くじ」についてご紹介したいと思います。

私が関わっているのは、四条通にある唯一の小さな山、「郭巨山(かっきょやま)」です。そんな郭巨山で実際に経験した「くじ取り式」や「くじ改め」についてお話しします。

山鉾巡行はなぜ行われる?

毎年7月17日は祇園祭のハイライト、「山鉾巡行」の日です。

祇園祭は八坂神社のお祭りで、なんと1200年もの歴史があります。お祭りの本義は、神様(八坂神社の御祭神)をお神輿に乗せて町中を巡行すること。これは、疫病退散・無病息災を祈願するための神事です。

実は、山鉾巡行はその神様が通る道を清め、邪気を祓うためのもの。金銀財宝で飾られた山鉾が町を巡ることで、悪いものがその装飾に取りつくと考えられています。巡行が終わると山鉾はすぐに解体され、邪気を一緒に取り払うというわけです。

そして、この巡行の「順番」を決めるのが「くじ」なのです。

「くじ取り式」と「くじ改め」

門川市長から受け取る

「くじ取り式」は毎年7月2日に京都市役所の市会場で行われます。各山鉾町内から紋付袴姿の代表2名が集まり、厳かな雰囲気の中でくじを引きます。

くじは2段階で引かれます。まず「予備くじ」で本くじを引く順番を決定し、そのあとにいよいよ「本くじ」を引いて巡行順を決めます。

くじを取る順番は「前祭(さきのまつり)」の鉾 → 傘鉾 → 山、そして「後祭(あとのまつり)」の山という流れで行われます。

実際には、予備くじが終わると、会場内で実際のくじが公開されます。

松井市長から受け取る。2025年ですね。

くじは和紙製で、墨で「山壹番」「山貮番」「山参番」と書かれています。

最初はこの漢字に面食らいます。「え?『一』『二』『三』じゃないの?」と思われる方も多いと思います。

本くじ会場では係の方がくじを丁寧に折り、中身が見えないようにされます。
ですが、実際には透けて見えることもあります(経験談)。
「壹」の文字の中に「豆」という部首がありますので、かつて私はそこに目をつけたことがありました。くじを取る際には「まめ、まめ、まめ…」と「豆」を探しているので、うまく見付けられれば一番くじを取れるわけです。

ですが、数あるくじの中から一瞬で判断せねばならず、「豆」をうまく見つけるのはなかなか困難です……。

くじ箱に入れて保管

引いたくじは、くじ箱に入れて持ち帰り、そのまま町内で保管されます。郭巨山では、くじを大切に保管する「くじ箱」が2つあり、大人用と子ども用がそれぞれ存在します。どちらも漆塗りの重厚な箱で、いつ作られたのかわからないほど古く、歴史の重みを感じさせてくれます。

くじ改めを務める人は、くじ箱を使って何度も練習します。私の場合、本番までの練習期間は、くじは会社や自宅の神棚で大切に保管していました。

「山一番」は特別な意味を持つ

くじで1番を引き当てる、いわゆる「山一番」は、山にとって非常に名誉なことです。

巡行の一番最初を務めるのは決まって「長刀鉾」ですが、それに続く最初の山に選ばれることが「山一番」。縁起が良いとされ、注目度もぐんと上がります。

ちなみに、山一番を取ると……実はちまきやグッズの売れ行きも倍になるという、現実的なご利益もあったりします(笑)。

くじ改めをするのはどんな人?

くじ改め

郭巨山では「副行事」と呼ばれる役職の方が、くじ取り式に出向き、くじ改めを行います。この役目は名誉ある大役ですが、その分お祭り準備から裏方の雑務まで担う責任も重大です。

私はこれまで4回、くじ改めを務めさせていただきました。

郭巨山では「その年、最も幸せな人がくじ改めをする」という風習があります。私の場合は、

  • 京都に戻ってきた年
  • 結婚した年
  • 息子が小1になった年(2回)

に選ばれました。

ほかにも、病気から復帰された方が選ばれるなど、町内の皆が「おめでとう」と思えるような方が選ばれます。他町内ではあまり聞かない、珍しい選出方法かもしれません。

市会場に向かう当日は、保存会長・副会長から激励を受け、火打石で清めていただいてから出発します。毎年、この瞬間は背筋が伸び、武者震いがします。

私の記録:
2007年:9番
2010年:8番
2018年:11番
2024年:12番

くじ改め
息子のくじ改め

次男の、くじ改めの練習の様子です。

そして本番がこちら。

巡行順が同じになる確率はなんと5兆2300億分の1!

くじ取り式当日に配布される紙。決まった順に記入していきます。

祇園祭の山鉾巡行が始まったのは1500年(山鉾連合会のHPより。一説では「足利義満が山鉾巡行を見た」という文献が残っているとも。それであれば1300年代)とされています。

巡行だけでも500年以上の歴史があります。

では、同じ巡行順になる確率はどのくらいか?

前祭では山が14基、鉾が3基、傘鉾が2基。それぞれの順番をすべて並べ替えると…

( 14×13×12×11×10×9……×2×1 ) × ( 3×2×1 ) × ( 2×1 ) = 約5,230,000,000,000通り

なんと、5.23兆通り!

この数字から考えても、500回程度の歴史で同じ順番になったことはおそらく一度もないでしょう。今年の巡行順は「今年だけのもの」と言えそうです。

(ちなみに、年末ジャンボ宝くじ1等の当選確率は2000万分の1。それよりもはるかに低い確率です!)

祇園祭の華やかな舞台の裏側には、こうした知られざる伝統や手間、そして人々の思いがあります。今年の巡行も、どうぞ楽しみにしていてください。

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今回は平岡社長がブログを担当しました。