はじめて知った「揚巻房」 ― そこに宿る日本の美
はじめまして。
今年の1月に入社いたしましたタナベと申します。
9月に入りましたが、京都は相変わらず暑い日が続いています。
それでも、朝晩は少しずつ過ごしやすくなってきたように感じます。
「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、その言葉を信じて、日々を乗り越えています。
さて、今回は弊社でも扱いのある「揚巻房(あげまきふさ)」について投稿させていただきます。

揚巻房(あげまきふさ)とは
皆さんは「揚巻房(あげまきふさ)」と聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。実は私も、入社するまではその名前を知りませんでした。
揚巻房とは、主に寺社仏閣などで、幕をたくし上げる際に使われる装飾的な結び房のことです。
左右に輪を出し、その中央を石畳のように組んで結び、房を垂らしたものです。その形状から“渦を巻くような結び”とも表現されます。


名前の由来
「揚巻(あげまき)」は、日本古来の結び方の名称で、もともとは髪型(総角)や結び紐の様式として使われてきました。
例えば、『日本書紀』崇峻即位前期には、
厩戸皇子(聖徳太子)の髪の注として「古俗、年少児年、十五六間、束二髪於額一、十七八間、分為二角子(あげまき)一、今亦レ之」の記載があります。
これは、当時の若年男性の髪型の風習を示しており、「揚巻」が広く知られていたことがうかがえます。

揚巻房のサイズ・素材・色について
揚巻房は幕のサイズによって推奨サイズが異なります。※参考:1寸=3cm

素材については以下のように、正絹、ポリエステル、人絹があります。

色については、赤は神道など、紫は仏教など、緑はその他のものに多く使われています。

揚巻房は、弊社の楽天市場やAmazonでも取り扱っております。
ぜひ一度ご覧ください。
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揚巻房のこれまで
「あげまき」は、平安時代の文学作品にも登場します。
たとえば『枕草子』(10世紀)には、次のような一節があります。
「御簾の帽額、あげまきなどにあげたる鈎のきはやかなるも、けざやかに見ゆ」
(御簾の縁に揚巻で結ばれた鈎が掛けられている様子も、くっきりと美しく見える)
この描写から、当時の貴族社会において、揚巻房は身の回りの装飾の一部として、日常の風景に溶け込んでいたことがわかります。

また、揚巻房は宮殿の調度品や装身具、武具、袋物類の飾りとして広く用いられてきました。 とくに武士が台頭してからは、甲冑に施された揚巻がよく知られるようになります。
その一例として、徳川義直が大坂の陣(1614〜1615年)で使用したと伝えられる「白糸威二枚胴具足」を挙げます。


このように、揚巻房は様々な形や用途で受け継がれてきました。
近年では、キーホルダーやイヤリングなどのアクセサリーとしても人気を集めています。
「あげまき」に込められた意味
では、揚巻房にはどのような意味が込められているのでしょうか。
揚巻結びには、大きく分けて二つの結び方があります。
①中心部分が「入」の文字に見える「入型結び」は、“福を招く”とされ、
②一方、中心が「人」の文字に見える「人型結び」は、“魔除け”の意味を持ちます。
古くから、結びつきの象徴や縁起の良いものとして、装飾などに用いられてきました。
揚巻の意味がよく表れている和歌が、『源氏物語』第47帖「総角(あげまき)」にあります。
薫君が、大君に贈った歌
「総角(あげまき)に 長き契りを 結びこめ 同じところに よりもあはなむ」
(あげまきに末永い契りを結びこめて一緒になりたいものです)
この和歌には、「揚巻の結び」に込められた永遠の繋がりが表現されており、揚巻の結びに込められた永遠のつながりや想いの深さが表現されています。
揚巻房は、単なる装飾にとどまらず、人と人との結びつきを象徴する存在でもあるのです。
直接的な言葉で想いを伝えるのではなく、揚巻という結びを通して想いを表す、そのような奥ゆかしさに、私は心動かされました。
たまには、こうして文学に触れてみるのも良いものです。

揚巻房の歴史を辿って
揚巻房はただの装飾品や実用品ではありません。日本の文化や美意識、そして精神性が内在するものだと感じています。
私は長年、書道を続けてきたこともあり、「ものに込められた心」や「目には見えない想い」に強く惹かれます。
ただ美しい、ただ綺麗というだけでなく、その背景にある人の思いや物語に触れることに、深い価値を感じます。

弊社で扱う旗や幕にも、職人さんの思い、お客様の願い、そして私たちの思いが一つひとつに込められています。
それは、単なる「ものづくり」や「販売」にとどまらず、誰かの心に残る“想い”を届ける仕事だと感じています。
これからも、心の通った仕事を大切に精進してまいります。
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今回のブログは田邉が担当いたしました。